♬アーティスト インタビュー♬株式会社龍角散 代表取締役社長 藤井隆太さん



3歳より故久保田良作氏にヴァイオリンを師事。11歳より故林りり子氏にフルートを師事。桐朋学園大学音楽学部及び研究科修了。小出信也氏に師事。研究科在学中に渡仏。エコール・ノルマル・音楽院で故クリスチャン・ラルデ氏に師事。レオポルド・ベラン国際コンクールで1位入賞。1985年より小林製薬、1987年より三菱化成工業を経て1995年より龍角散8代目社長に就任。龍角散ダイレクトや服薬補助ゼリー投入などで、就任時の累積赤字を一掃し、2018年3月度で就任時売上の約5倍の204億円を達成。フルート奏者としてコンサートへの出演や後進の指導にもあたっている。

 龍角散&ヤトロン室内管弦楽団と毎年5月に開催される「龍角散ビルコンサート」に出演。2007年、同コンサートで小出信也氏とチマローザ2本のフルートのための協奏曲を協演(同社ホームページで公開中)。2012年、台湾大学医学人文博物館でのコンサートで現地ヴァイオリニスト、ピアニストと共演。日本交響楽振興財団賛助会員、厚生労働省社会保障審議会医療保険部会臨時委員、公益社団法人東京生薬協会会長、公益社団法人神田法人会会長、桐朋学園音楽部門同窓会副会長。


音楽を始められたきっかけは?

 

両親ともに音楽好きで、家に友人たちを呼んでアンサンブルを演奏したりしていました。で、3歳の時からバイオリンを始めたんです。幸運なことに近所に桐朋の先生がいらして、そこに通いました。

その後桐朋学園の音楽教室に行くことになるのですが、ここで鍛えられましたね。中学校の時に試験に合格して、オーケストラに入ったのですが、齋藤秀雄先生に「ここで演奏する以上は、親の死に目には会えないと思え」と言われて。オーケストラは一人でも欠けたら成立しないということ、プロの厳しさを教えられました。今思うとここでの経験が自信につながりましたね。

 

で、バイオリンで桐朋学園高校に行こうと思っていたのですが、なんと私の父親、当時の7代目龍角散の社長ですが、ストラディバリウスを会社で購入したんです。それがニュースになってしまって、それはもう、皆が羨望の眼差しで私を見るわけですよ。私自身1度しか触らせてもらえなかったのに!

でね、どんなに頑張っても楽器のおかげと言われるのが嫌で、えーい、俺も男だ!とバイオリンを辞めて、フルートに転向したわけです(笑)

 

それはすごいエピソードですね!今はやはりフルートにして良かったと?

 

うーん、バイオリンも好きだけど、フルートは息を使う楽器で、心に近いというか、ストレートに伝わるなと思いますね。

 

それで無事に桐朋学園大学へご入学された、と

 

大学時代も色々アルバイトして苦労しましたよ。演奏に関わることだけでなく、京王電鉄の駅係員とか(笑)電車が好きなのでね。

もちろん授業も、更に練習もしなければならないので、効率よく物事を進めることを学びました。これは会社経営にも役立ちましたね。

師匠でN響のトップだった小出信也先生の演奏旅行にお供して、教室では出来ない生きた教育を受けられたことにも感謝しています。

 

そして卒業後、フランスに留学されたのですね

 

色んな国の学生と共に勉強したのですが、真面目に練習して来ない連中もいるわけです。

でもね、試験はすべて演奏会形式で本番と同じなのですが、これがビックリするくらい皆、自己アピールをするわけです。

一方、私は先生に「君は何をやりたいのか分からない」と怒られたりで…今考えると、その通りだな、と。自分の確固たる信念が確立されていなかったんですね。それに気づかせてもらいました。

 

そして家業を継がれるわけですが、その転機は?

 

やるなら中途半端じゃなく徹底的にやろうと。で、まずは小林製薬に入社したのですが、面接で小林社長に「最近の若者は自分に合わないとすぐに辞めたりするが、君はどうだ?」と聞かれたりで、「本当に出来るのか?」とずいぶん心配されたようです。

 

でも、営業部で成績トップでした。なぜかって、何よりも私はフルート奏者として、沢山の本番を重ねてきて、圧倒的に「現場」に強かったわけです。

そして、ビジネスと音楽には共通点が沢山あります。

分析力、計画性、調査力、そして何より心のこもった仕事で感動を共有することが大事なのです。これらはすべて、音楽活動でも同じですよね。

 

そして三菱化成工業(現三菱ケミカル)経て龍角散へ。

創業1871年の伝統ある老舗企業ですが、40億円の借金を返済して経営を立て直し、年商200億を達成されたのも藤井社長ですね

 

父がガンになって呼び戻されたのですが、それは大変でした。今だって新型コロナで市況も不透明ですが、どんな時代であっても「世の中に必要とされる企業であること」が大事なのです。

 

今では、若手の音楽家が私のところに支援を頼みに来ることもありますが、甘えた考えを厳しく指摘することもあります。演奏技術を磨くだけではなく、学生の頃から社会との接点を考えて、世の中に受け入れられるよう努力しなければいけません。

 

音楽家を目指す若者に藤井社長から一言お願いいたします

 

皆がステージプレイヤーになれる訳じゃないのは最初から分かっているんだから、もっと社会で出来ることを考えるべきです。

譜面が読めるということは、論理的な思考が出来る証拠ですし、

演奏会の企画はスケジュール立てて計画的に行動出来るという証です。

一般のビジネスにも活かせることは沢山あります。

 

オーケストラ運営のアドバイスもされていますね

 

今、日本にはオーケストラは沢山ありますが、皆同じところを目指す必要はなくて、それぞれ色んなやり方で良いと思います。

東京シティフィルの評議員をやっていましたが、今はゲーム音楽の演奏会が人気で、経営も上手くいっています。

皆がみんなベルリンフィルを目指す必要はないでしょう。

これは我が龍角散も同じで、オンリーワンを目指すことが大事です。

何でも屋をやる必要はないんです。

 

社長ご自身、音楽と実業を両立するのは大変ですか?

 

両立しなければならないと思っている訳ではなく、あくまで私の本業は社長業です。

人生全てをかけるくらいの思いがないと、責任ある仕事を全うすることは出来ませんから。

ただ、12月の「バルカン室内管弦楽団」との共演、こういった活動はバルカンの平和のための外務省の支援事業であり、国際貢献という意味もあって取り組んでいます。

 

「バルカン室内管弦楽団」

指揮者の柳澤寿男さんがバルカン半島の民族繁栄を願って設立したオケですね

 

今まで2回ほど共演しましたが、前回来日した若手奏者が病気で亡くなったと聞いたり、医療体制の違いで厳しい現実を突きつけられたこともあります。それに比べると日本は恵まれすぎているくらいで、もっと世界の状況を知ってほしいなと。

音楽活動を通じてこういうことが訴えられれば、と思っています。

 

普段、フルートの練習はどれくらいされますか?

 

忙しいので毎日なんてとても無理です(笑)

でも、譜面をきちんと頭で理解したり、移動の車の中でイメージトレーニングしたり、工夫していますよ。

 

でも、少ない練習時間で舞台に立つのは緊張しませんか?

 

緊張??しないしない(笑)

やはり経営者として修羅場をくぐってきましたし、踏んでる場数が違うから。

そして、その自信を裏打ちするのは「健康である」ということです。

健康な体でブレスが長く取れれば、それだけで気持ちに余裕が持てるし。

私にとって演奏活動は、健康への重要なモチベ―ションですね。

 

後はお客様の層をみて、何を訴えるかを考えたり、冷静に戦略を立てて挑みますね。

 

今、歌いたくてもなかなか歌えない合唱愛好家へメッセージを!

 

文化芸術こそ、こういう状況を救うものです。

そもそも歌とは「祈り」で、人間の力ではどうにもならないこと、天災や疫病と戦う人間の精神的な支えになるので、今こそ歌が必要だと思います。

音楽の原点は声、歌です。難しい環境だとは思いますが歌い続けて頂きたいです。

 

当社の使命は「皆さんに心身ともに健康になっていただく」ことなので、

音楽を通じて精神的な安らぎを提供出来れば嬉しいなと思いますね。

 


♩コンサートのお知らせ

 

12月14日「バルカン室内管弦楽団」コンサート

19時開演

紀尾井ホール